酸味
- bongout7
- 2024年5月25日
- 読了時間: 6分
更新日:3月31日
さん-み【酸味】(名)すっぱい味。すみ。〈三省堂国語辞典 第七版より〉
例文:
「-の強いみかん」
「人間の味覚には、甘み、-、塩味、苦味、旨味があります」
「このパンは-がありますか?」
「ライ麦パンの-はサワー種によるもの」
「-のあるライ麦パンを売っている店が近所にはありません」
「-のあるライ麦パンを作りませんか?」
「-のあるライ麦パンが食べたいです!」
「-のあるサワー種のライ麦パンを(需要低いけど、、)焼いてみましょう」
という事で、急にやる気になったのでサワー種を起こしました。
種起こしにちょうどいい温度だし。

これがスターターとなる種の元。
ライ麦粉と水を練り練りしてあたたかいところに置きます。
ちょいちょい覗いては「元気ですかー?」と声がけをし、あなたの事を気にかけてますからね、よろしく頼むよ、と念押しをし続けます。
数日後しばらくするとこのようにぶくぶくと元気ですよー!と返答の気泡が。

この状態になるとライ麦の青臭い土臭いような香りから、アルコールの香りと共にりんごのような甘酸っぱいフルーティーな香りへ変化しています。
この中では、ライ麦についていた酵母が糖をアルコールと炭酸ガスに分解し、乳酸菌が糖から乳酸をつくり、酢酸菌がアルコールを酢酸に変え、というような忙しいことが起こっているのです。
これをスターターとしてパンに使っていくのですが、安定した種にするために数回新しい粉と水でリフレッシュさせて継ぐという作業を繰り返します。
そうしてこういう状態になります。

え、これはセメントですか?
って感じの美味しそうとは程遠い物体。
ほのかに酸味のある香りがします。
ちなみにカンパーニュに使っているルヴァン種はこちら。

こっちはつやつやでぷくぷくで愛らしく美味しそう。
香りも甘く芳醇。
継ぎ続けて6年目のベテラン種の貫禄。
(こちらは酢酸菌を抑えているのですっぱくありません。
つまりこれで作るカンパーニュもすっぱくないです。)
この二つの対称的な種を比べたときに、サワー種の不愛想で武骨な姿(しかも万人に好かれない強い酸味という個性あり)にシンパシーを抱いたあなたはきっとわたしと通じるなにかがあるに違いない。
残念ですがそんなサワー種系の我々は嫌われようがコツコツ生きていくしかありません。
さて、サワー種を使ってパン生地を作ります。
ライ麦粉50%、小麦全粒粉と小麦粉合わせて50%。

フックに絡み付きすぎ~
ライ麦粉はグルテンの含有量が低いので捏ねても捏ねてもべったべた。

一応これで捏ね上がりです。
普通パン生地の捏ね上がりと言えばつるりと滑らかな膜が張ったような、柔らかい赤ちゃんのほっぺのような、ふかふかのお布団のようなものを思い描くでしょう。
ライ麦は違うんです。
そういう素直な子じゃないんです。
ある程度捏ねたらあとは長く長ーく一次発酵を取って、時間の力で生地を良い感じに仕上げてもらいます。
人力でどうにもならんものには、時間の経過だけが解決策を持っていたりするもの。
パン屋というものは時間を費やすことに対して、一般の人の感覚よりも異常に尺が長めという感じがあります。
種起こすのに数日かかるし、12時間とか16時間発酵とか普通にあるので。
それは自己都合で時短できないままならないもの(発酵)を相手にしているうちに染み付いてしまう感覚かもしれない。
うらやましいことにわたしの倍以上の睡眠時間を取ったパン生地は、その後また長い二次発酵という名の二度寝を経て焼き上がりました。

どのパンとも違う酸味を帯びた香ばしい香り。

このパンの名はヴァイツェンミッシュブロート。
ヴァイツェン(小麦)ミッシュ(複数の穀物が混ざった)ブロート(大型のパン)ということ。
小麦が50~90%使われているパンに大体ついている名前です。
50~90%って相当幅広くて同じパンとは思えぬ感じになるはずなんだけど、一緒くた。
ドイツにおける厳格なのか雑なのか謎なパンの分類です。
油分も糖分も加えてませんがしっとりとしています。
酸味はツンツンしすぎないなるべくマイルドな酸味を目指しています。
バターやクリームチーズを塗って、
ハムやチーズを挟んで、
クリームスープやポタージュに浸して、
他のパンには無い独特の味わいをお楽しみくださいませ。
もしもご購入いただいて、「やっぱ酸味のあるパン、無理~!」となった時はトースターでこんがりと焼いてみてください。
香ばしさが勝って酸味が和らぐので食べやすくなります。
それでもだめならもう仕方ない。
そもそもの相性の問題です。
定番化するつもりですが、酸味の調整、工程、需要がどれ程か、等々現在模索中となっております。
定着できるまでは少量の焼き上げで様子を見てまいりますので、確実にご入用の場合は前々日までにご予約をいただけますと作る量を増やすことは出来ます。
需要が高まればサワー種を使って他の雑穀や種子類を入れてさらに万人に受けないようなものも焼きたいなー。
需要高まるかなー。
どうぞよろしくお願い致します。
※2025年2月現在、サワー種を使ったパンは大幅に変更されています。
詳しくは以下の記事をお読みください。
雑記
定休日、気持ちのよいお天気。

ベンチで試作のヴァイツェンミッシュブロートにツナサラダを挟んだツナサンドを食べながら本を読んでいました。

海の中のたくさんの生き物たちの声に耳を傾けているフランスの物理学者・自然保護活動家ビル・フランソワ氏により紡がれた海の物語です。
晩年の河合隼雄センセイの翻訳というので手に取った一冊。
人間の欲によって生態系を壊された魚たちは人間のせいで!このやろー!と我々を恨み反撃することはなく、自分の生を海の生物の循環の中をそれが人為的に歪められていようがただただ全うするのみ。
それに引き換え人間とはなんと愚かな、、強欲な、、この自己中!
と浮かんだ言葉がブーメランとなって自分に返ってきては心絞られながら噛み締めるツナサンド。
これもかつては海を泳いでいた。
《「魚の絵を描いてみよう」
フランスの小学校で行われた調査でこう呼びかけられた子どもたちの大半が描いたのは、、長方形だった!
食卓に上がる魚のフライと海を泳ぐ魚が頭の中で結びつけられないという。》
という話が中盤に書かれており、いやいやさすがに嘘でしょ。盛り過ぎ。
と思ったけれど手元のツナを見て、いや、あり得るのかもしれないとも。
これがマグロとして海を泳ぎまわり、イワシやクラゲなどを食べながら、仲間と長い旅をし、捕らえられ、どこかの国の陸に揚げられ、さばかれ、缶詰に加工され、トラックで陸地を移動し、海の香りが一切しない町のスーパーの棚に並べられる、という過程を毎回いちいち思い描くことはない。
海を生き生きと泳いでいた魚ではなく、缶に詰まっている食べ物という認識になっていた。
なんと恐ろしいことです。
食べ物を食べ、食べ物を作り売るものとして、食材がかつてそれぞれの場所で物語を生きていた生命だということを、全部繋がっていることを都度振り返り振り返りしながらいきたいなあ。
朝ドラ虎に翼が現在8週目で戦時中を描いており、少ない食べ物を分けあって大事に味わっておいしいねおいしいねと微笑み合いながら食べている姿にも、これを清貧とされていたことなど含め考えさせられる今日この頃です。戦争なんて為政者のエゴだしクソ。
という事で〆の曲は、エリックさんで「食物連鎖」です。ではどうぞ。
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